「賛成です」と「賛成します」に関する一考察
理論研究
作者:李英
1.はじめに
國立國語研究所により作成された「日本語學習者による日本語作文と、その母語訳との対訳データベースver.2(2001)」という資料がある。これには、中國?インド?カンボジア?韓國?マレーシア?モンゴル?シンガポール?タイ?ヴェトナムの日本語學習者による日本語作文、作文執筆者本人による母語訳、日本語教師による作文の添削、作文執筆者?添削者の言語的履歴に関する情報という4種のデータのほかに日本語母語話者(大學生)による作文も収められている。作文の課題は2種類あり、字數は800字程度と定められている(新屋2003より)。
小論は、この資料を用いて、中國人學習者の日本語と日本語母語話者の言語使用の一例とを比較してみようとするものである。本資料は、各作文が內容的にも量的にも、またジャンルの麵でも共通しているため、比較には恰好の材料と考えられるからである。
2.資料
上記のデータベースの作文のうち、喫煙の規則をテーマとする作文(課題2)を使用する。この課題は、喫煙の規製に関して自分の意見を記述してもらうものである。分析対象は中國人學習者の作文43編と日本語母語話者の作文44編である。以下中國人學習者の作文を「CN」、日本語母語話者の作文を「JP」とする。
新屋2003は、このデータベースに現れたCNとJPの日本語の述部を、當為形式、判斷形式(「思う」係と助動詞係)、認識形式、伝聞形式、表出形式(聞き手に訴えかける形式)、終助詞の「か」、その他などの7類型に大別して、CNとJPの文末形式を比較した。
小論は、先行研究をふまえ、喫煙の規製に関して自分の意見を表明する際に使われた「賛成/反対です」と「賛成/反対します」という言葉に焦點を當てて分析する。データのうち、「たばこについて」などのタイトルを除くと、調査対象となる文數は、CN775文、JP709文である。従って、平均文數は、CN18.02文、JP16.11文であり、それほどの差はないと言える。
3.分析
作文は、喫煙の規製について「賛成」か「反対」かという態度表明を要求されていた。小論では、「私は喫煙を規製することに賛成です」のように、文末に「賛成」または「反対」のいずれかの語を用いて自分の態度を述べた文(以下「態度表明文」とする)のみに絞って分析を行ったところ、以下のような結果となった。
CNでは43編の作文、全775文の中で、6例の態度表明文があったが、6例とも「私は、……賛成する/反対する」という形を取っている。つまり、「賛成/反対」という立場を「賛成する/反対する」という動詞述語を持って表現していて、名詞述語としての使用は1例も見られない。