正文 第24章 冷戦とポスト冷戦の東アジアの地域交流(1)(3 / 3)

したがって戦後日本における歴史教育と歴史教科書を「新しい歴史教科書をつくる會」及び「日本を守る國民會議」の2つの教科書問題だけで論じるのは議論として不十分であり、家永の歴史教科書と教科書裁判が歴史學と歴史教育の深化に果たした役割を正しく認識したうえで考察する必要がある。

本論の最後に、自らも教科書の執筆に取り組み、家永の教科書裁判を支援した歴史家、故永原慶二が家永の教科書及び教科書裁判を評した言葉を紹介して締めくくりとしたい。永原は家永の歴史教科書が提示した歴史事実の敘述とその意味、そして教科書裁判の意義を簡潔明瞭に私たちに指し示してくれる。

「なかでも家永がもっとも重視したのは人権にかかわる史実である。植民地支配がいかに他『民族』を抑圧し、その人権をふみにじったか。侵略戦爭がどのように相手國人民の人権を蹂躙し、同時に自國國民をも『奴隷化』したか、家永の教科書敘述はこの點の告発で、どの教科書よりも尖鋭であった」⑿。

「第三次訴訟の主要な爭點である『南京大虐殺』『日本軍の殘虐行為』『七三一部隊』『沖縄戦』なども、家永にとって日本軍の背徳性を告発することだけが主題ではなく、戦爭が不可避的に隨伴する反人権的狀況と、とくに日本のそれが具體的にどのような事態をひきおこしたかを冷靜に直視確認することによって、今日、日本人が自國の歴史についてどのような目をもたなくてはならないかを明示したかったのであろう」⒀。

「三二年の『訴訟』を通じてわれわれが學んだ最大のものは、歴史認識こそ未來に向けての姿勢を示すもの、という點である」⒁。

注:

①「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同聲明」(2008年5月7日)、日本外務省ホームページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/visit/0805_ks.html)及び2008年5月8日付『朝日新聞』。

②同上。

③藤岡信勝『自由主義史観とは何か』(PHP文庫、1997年)、同『「自虐史観」の病理』(文藝春秋、1997年)、同編『2000年度版歴史教科書を格付けする』(徳間書店、2000年)など。

④君島和彥『教科書の思想-日本と韓國の近現代史』(すずさわ書店、1996年)160~174頁。

⑤「『歴史教科書』に関する宮沢內閣官房長官談話」(1982年8月26日)、日本外務省ホームページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/miyazawa.html)

⑥「義務教育諸學校教科用図書検定基準(平成11年1月25日文部省告示第15號)」及び「高等學校教科用図書検定基準(平成11年4月16日文部省告示第96號)」。

⑦本節以下、家永教科書裁判の経緯及びその成果に関する敘述は以下の文獻による。教科書検定訴訟を支援する歴史學関係者の會編『歴史の法廷 家永教科書裁判と歴史學』(大月書店、1998年)、永原慶二『歴史教科書をどうつくるか』(岩波書店、2001年)、三穀博編『歴史教科書問題(リーディングス 日本の教育と社會 第6巻)』(日本図書センター、2007年)。

⑧永原慶ニ『20世紀日本の歴史學』(吉川弘文館、2003年)143頁。

⑨家永三郎『一歴史學者の歩み』(岩波現代文庫、2003年)150頁。

⑩永原慶二『歴史教科書をどうつくるか』144頁。

⑾君島和彥『教科書の思想-日本と韓國の近現代史』162頁。

⑿永原慶二『歴史教科書をどうつくるか』162頁。

⒀同上、165頁。

⒁同上、172頁。