「北東アジア地域の輸送回路」についての提言は、実際に物流調査を現地で行ってまとめた労作で、この地域の物流活性化のため、優先的に整備すべき9つの輸送回路と貿易手続きの改善等を提言したものです。このレポートを持って手分けしてメンバーで各國政府に提言して廻りました。私も中國政府の擔當局長を訪問しました。その際局長からは「有益なレポート評価します.中國側の整備については、極力対応します。ただ、中國の交通網とつながるモンゴルの整備が心配です。日本が協力してくれると良いのですが」とのことでした。その後、日本政府のモンゴルのインフラ整備へのODA適用の働きかけをするとともに、環境とエネルギー問題についても実踐的議論を重ねていきました。

こうした活動の第2ステージへの移行の土台を造ったところで、私の12年の知事を退任しました。今、振り返ってみても、北東アジアの交流促進に熱い情熱を燃やし、新潟県知事として最優先課題としてこの問題に取り組んだことは、間違いではなかったし、やりがいのある仕事でもありました。ただ殘念ながら、一般の県民や企業にとっては、直接には関係が少ないためか必ずしも関心は高くはありませんでした。

退任して4年近くが経過、この間に北東アジアの経済は格段に安定·発展していますが、その割に経済圏構想が進展しないのは何故なのだろうか、殘念に思いながら見ています。また、この地域の経済圏構想の実現を目指して、各國と協力して立ち上げた「組織委員會」も、その後活動をしていない。

東アジアの発展ぶりは目覚しい。しかしこの地域の経済圏構想は具體化しない。このことに我々はもっと強い問題意識を持つべきでしょう。東アジアでのFTAをめぐる問題ですら、日本と中國のイニシアティヴ爭いみたいになっているのは殘念です。

EUでは長年のライバルだった獨·仏が地域連合の発展のため歴史的握手をしました。この地域でもそろそろ日中が無條件で手を握るべきであると思います。これまでの北東アジアの交流に攜わってきた新潟という一地域の活動が、その構想実現に向けて更なる貢獻をすることを期待するとともに、この國際シンポジウムがその一環として、大いに意義あるものになりますよう祈念しております。

この地域の問題解決は同時に地球全體が抱えている課題の解決にも通じるものです。地球溫暖化問題、原油·食糧価格の高騰などグローバルでかつシビアーな課題に人類は直麵し始めています。各國が自國の利益を優先していては、解決できない課題ばかりです。北東アジアが抱える課題について、まず日中が新たな価値観のもと解決に向けてスタートすることに、我々大學人が手を攜えようではありませんか。